2017-7-2
築地の寿司職人も、主婦も愛する、ふっくら焼きあがるとくべつな卵焼き器。この味を生み出しているのは…?
カン、カン、カン……。足立区の下町風情漂う住宅街を歩いていると、心地よいトンカチの音が聞こえてきます。
覗くと、そこにはピカピカの卵焼き器がズラリ!
目がくらむほどにキラキラと輝いていて、まるで魔法の道具みたいです。
これを上手に使って卵焼きを焼くと、まるでプロの料理人が作ったような、ふわっとやわらかくて、ぽってり、まろやかな味の卵焼きが食べられる。ふつうの卵焼き器とは段違い、もう中で眠りたいくらいフワフワなんです。
そうそう。こんなイメージでしょうか(笑)。
どうやら築地の寿司職人さんたちも、この卵焼き器を使って「高級卵焼き」を作っているんだとか。
そんなスペシャルな卵焼き器をつくっているのは、こちらの方々です。
(あれ、なんだか似てる…?!)
と思ったあなたは大正解!この「中村銅器製作所」は、親子4代にわたって受け継がれている、老舗のちいさな銅器製作所。
右から、3代目の中村恵一さん。その次男である公嘉(まさよし)さん、そして長男の大輔さん。
数年前まで、大輔さんは会社員をされていて、公嘉さんは家具職人だったそう。でも今はこうして、二人とも家業を受け継がれているそうです。
この日は、オチビサン率いるオトナの見学ツアーにて、「オチビサンの卵焼き器」が出来るまでを見学に来ました!
前列左から、オチビサンの見学ツアーに参加した田上さんと、ヤマウチさん。そして私、ライターの塩谷舞です。
それでは工房の中にお邪魔して、卵焼き器ができるまでの過程を実際に見てみましょう。そして最後には、職人仕込みの「おいしい卵焼きの焼き方」も教えてもらいましたよ。
とくべつな卵焼き器ができるまで、の工程は?
まずは、長〜い銅の板を、兄弟ふたりでガシャン!と…
これくらいの小さなサイズに、切り分けていきます。
ちょうど、折り紙くらいのサイズ。そしてほんとに、折り紙を作るように、作業がテキパキと進んでいきます。
不要な部分を機械でカット。
十字の形に、美しくカッティングされました。取っ手をつけるための穴もあけておきます。
そして……
ヨイショ、とペダルを踏むと、ご覧の通り。
気持ちよく、90度。直角にグンッと曲がります。
もう、完成系が見えてきました。
四隅の継ぎ目を炙って固めて、取っ手のつなぎ目部分をつけていきます。
ずらりと並ぶ様子は壮観…まるで縁起物みたいです。
そして、最も重要な工程に入ります。卵焼き器をコンロの火にかけて、「スズ」の塊をあてていくと……
「スズ」がご覧の通り! 見事、トロトロに溶けていきます。
まるで魔法?! と思ってしまいますが、理科で習った、固体から液体への状態変化ですね。スズの融点は231.9度です。
この工程は、お父様の恵一さんが担当。かなり熱いそうで、額に汗が滲みます。
最後は、卵焼き器の内側にスズが均等に行き渡り、鏡のようにピッカピカに!
剥げやすいメッキとはちがって、恵一さんが焼き付けるスズは、ちょっとやそっとじゃ剥げません。
「ウチの卵焼き器は、一生使っていただけますよ」と、自信を持ってオススメしてくださいました。
そしていよいよ、最後の仕上げ。
細かな角の凸凹をとって、ツルツルに仕上げていきます。あとは取っ手をつけたら完成! なのですが……
実は今回の卵焼き器には、そこに『オチビサン』の家紋も入ります。こんなコラボレーションは、これまでにも事例がないそう!
使わない取っ手をいただいて、私も家紋の焼印にチャレンジ。
ジュッ……
……ちょっと焦げすぎ?(本来の場所は、取っ手の端っこです)
そして、本体にはこちらの刻印が入ります。このひょうたんのようなシルエットは、もちろんオチビサン。
完成品は、こちらです!
一般的な卵焼き器よりも、すこし急な角度になっているこの取っ手は、先代が築地の職人さんと共同研究してみつけた「最高の角度」なんだとか。
究極に美味しい卵焼きを……とこだわりぬいて完成した、中村さんたちの作る卵焼き器。
本当にふんわりとした柔らかな卵焼きができるから、職人さんから主婦の方まで、たくさんの方に、ずっと愛用されているんですよ。
これを使うと、どのご家庭でも「おふくろの味革命」が起きるかもしれません!
職人直伝!ふんわり美味しい卵焼きを作るコツ
こうして毎日、工房で卵焼き器を作っている中村さんたち。
「卵焼きも、修行の一環として作られたりするんですか?」と聞いたところ、
「修行ではないんですけど、毎日作ってると食べたくなっちゃって、やっぱりよく作っては食べてますね」
と、お兄さんの大輔さんが答えてくれました。確かに、毎日見てると、すっかり「卵焼きの口」になっちゃいそう。
そんな中村さんたちに、この卵焼き器の使い方のコツを教えてもらいました。
恵一さん「卵焼きは、コンロに置きっ放しで焼くよりも、すこし離して焼いたほうが良いですよ。卵焼き器全体に余熱がまわっているので、じっくり焼けます。あと、半熟状態でひっくり返していくと良いですね」
ーー火加減は、どれくらいが良いでしょう?
恵一さん「弱めの中火ですかね。卵を入れたら、すこしコンロから浮かせて。そこで半熟状態になるとプツプツと気泡が出てきますよね。その気泡をぜんぶ潰して、卵を返して、また卵を入れて。弱火はあんまりオススメしないですね」
焼くときのポイント
・コンロからはすこし、離して焼く!
・半熟状態で気泡をつぶして、ひっくり返す!
・火加減は、弱火の中火で!
ーーお手入れ方法は、どうすれば良いでしょう?
恵一さん「卵焼きを焼いて、水洗いしたあとは、油をひいて、キッチンペーパーなんかを敷いて。使わない間はそうやって、油をなじませておいてくださいね」
ーーお肌のパックみたいですね。夜にパックしておくと、翌朝のお肌が調子良い、みたいな。
恵一さん「そうですね(笑)。そうしておくと卵焼き器の表面が乾かないので、卵焼きがしっとり焼けるんです」
ーー水洗いをしたまま、水を拭かずに乾燥させちゃうと、良くないですか?
恵一さん「そうですね、布とかでちゃんと拭かないと、表側に斑点みたいなものが出来てしまいます。でも使い勝手は変わらないし、それはそれで使い込んだ銅の味が出て、良いんですけどね(笑)。ま、そこまで気を使わなくっても大丈夫ですよ」
ーー洗剤は使わないほうがいいですか?
恵一さん「せっかくの馴染んだ油がキレイに取れちゃいますので、あまりオススメはしないです。でも、もし洗剤を使っちゃったら、また油を馴染ませてもらえれば大丈夫ですよ」
お手入れのポイント
・洗剤よりも、水洗い推奨!
・水洗いした後は、ちゃんと布などで水気を拭く
・その後、油をひいて、キッチンペーパーを敷いておく
・もし洗剤を使ってしまったら、また油を馴染ませておく
ーー卵焼き器以外の料理に使ってもいいですか?
大輔さん「こないだ、パンケーキ作ったけど、美味かったですよ(笑)」
恵一さん「知人で、ハンバーグを作った、というのも聞きましたね。しっかり熱が伝わるので、すごく美味しくなるんだそうです」
ーーそう言われると、ハンバーグも作ってみたくなります!
恵一さん「でもほら、お肉の油は水洗いだとなかなかニオイまで落ちないから。次に卵焼きを作ったときに、すこし肉風味になっちゃいますね」
ーーたしかに!
おまけ
・パンケーキを焼いても美味しいよ(大輔さん談)
・ハンバーグも美味しいらしいけど、卵焼きにお肉の風味がついちゃうよ
と、たくさんのことを教えてくださいました!
「息子さんがお二人も家業を継いでくださるなんて、とっても心強いですね」
と恵一さんに言ったら「実は、もうすぐ23歳の三男もここで働くんですよ」と、嬉しそうに教えてくれました。四代前から愛されているとくべつな卵焼き器、まだまだこの先も、しっかり受け継がれていきそうです。
中村銅器製作所さんが作るすべてのお鍋は、いつでも、何年後であってもお客様からの修理を受け付けているんだとか。これからも三兄弟が受け継いでいくから、何十年後でも修理は安心ですね。
魔法みたいにふんわり、ふっくらした卵焼きを作る、卵焼き器の生まれる工房。卵焼きの優しさそのものが、みなさんのお人柄にも現れているようでした。
中村家謹製の卵焼き器に、オチビサンの家紋が入ったコラボ品は、7月末までにご予約いただいた方のみへの、期間限定販売です。
私も中村さんたちに教えてもらったアドバイスを取り入れて、この卵焼き器で。最高にふっくら、ぽってり、フワフワの美味しい卵焼きが焼けるように、訓練したいと思います!
「オチビサンの銅でできた卵焼き器」購入はこちらから!
Text by 塩谷舞(@ciotan)
Photo by 中村ナリコ(@nariko.nakamura)
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