2015-11-5
オチビサン歳時記 第16回 〜マユミの実〜
木々が赤や黄色に色づく季節、
美しい葉にまざって、たくさんの赤い実がなっています。
マユミの実です。
身近にあるのに、名を知らない植物ってありますよね。
オチビサンは、いつもそんな植物を教えてくれます。
マユミって、いったいどんな木なのでしょう。
弓材になった、愛らしい実のなる木
マユミは、ニシキギ科の落葉樹。秋には美しく紅葉しますが、なにより目を引くのは、そのかわいらしい実でしょう。1㎝ほどの果実は薄紅色。枝にぶらさがるようにしてつき、まるで折り紙で折ったような、丸みのある箱型をしています。
秋が深まったある日、熟した実は突然はじけます。4つに割れた果皮の中から顔を出すのは、朱色の仮種皮に包まれたタネ。愛らしさを増した実に、気づいた人は見とれるはず。鈴なりの赤い実をついばみにくるのは、ツグミやヒヨドリなどの野鳥。おいしそうですが、人間は食べると下痢などをおこすので、見るだけにしましょう。
マユミは、古くから日本人と深いつながりがありました。樹皮はコウゾやミツマタと同じく和紙の材料になり、「檀紙」という高級紙に生まれ変わりました。「檀」は、マユミのことです。家具にも加工され、今でも将棋の駒の材料などに使われています。
そんなマユミの利用法の中で、もっとも知られているのが弓の材料です。漢字で書けば「真弓」。弓材として用いたことから、その名がつきました。マユミの木はじょうぶでよくしなるので、木の枝をけずって断面を丸くし、丸木弓を作りました。後世、竹を材料に使うまで、弓は丸木弓が主流だったそうです。万葉集には、「弾く」や「張る」などの言葉にかける枕詞として、マユミが登場しています。
天の原振りさけ見れば白真弓 張りて懸けたり夜道はよけむ
――空を振り仰いでみると、白真弓(マユミで作った白木の弓)のような月が出ている。夜道はよかろう。
昔の人も、この季節にはチビサンのようにマユミの実がはじける音を聞いたのでしょうね。赤い実を見上げて、まもなく来る冬を想ったのかもしれません。