2015-8-18
オチビサン歳時記 第七回 〜空蝉〜
夏をにぎやかに彩るセミの声。
日本には、「
」という美しい言葉があります。
時雨は、秋から冬に見られる、通り雨のようにさーっと降る雨。
暑さを増幅させる蝉の大合唱を、涼しさを感じさせる言葉で表すなんて、
昔の人は美しい感性をもっていました。
美しいといえば、オチビサンが見つけたアレにもすてきな名前があるんですよ。
蝉の抜け殻、またの名を…
蝉の抜け殻には、「
」という呼び名があります。「うつしおみ(この世に今生きている人)」がなまって「うつせみ」となったのですが、「空蝉」の漢字をあてたところ、蝉の抜け殻や蝉そのものも、そう呼ぶようになりました。
源氏物語を読んだ方なら、あの人が思い浮かぶことでしょう。没落した貴族の娘で、年老いた地方役人の後妻でしたが、ある夜、光源氏の強引さにまけて、一夜を過ごしてしまった女性です。もう一度会いたいと願う源氏を、ゆれる思いで必死に拒んでいたのに、眠れずにいたある晩、源氏が部屋にしのびこんでくるのです。闇にただよう香りで、彼と気づいた彼女は、薄衣一枚を残してその場から逃げました。源氏はその衣を持ち帰ると、彼女にこんな歌を詠みました。
空蝉の身をかへてける木のもとに なほ人がらのなつかしきかな
――まるで蝉が姿を変えるように、あなたも抜け殻だけ残して行ってしまった。私はいまでもその木の下で、あなたの人がらをしたっております。
オチビサンが拾った薄衣の主は、どこにいるのでしょう。ちなみに、蝉は抜け殻でも種類がわかります。小型で、毛深い触角が8つの節にわかれた、艶のある濃茶の抜け殻はヒグラシ。コロンと丸く、泥におおわれた小さな抜け殻はニイニイゼミ。湿った場所が好きなので、地上に出るとき泥だらけになると考えられています。
はかない命のようで、蝉は虫のなかではかなりの長生き。今年の卵は、多くが来年の梅雨ごろふ化し、幼虫は土にもぐって長い地中生活に入ります。再び地上で会えるころ、私たちはどんな人生を送っているのでしょうね。