2017-4-2
全国各地にファン多数。青森・津軽の民芸品「あけびかご」と「こぎん刺し」の生まれるところ
誰かがすこし、手をかけてくれたものを受け取ると、嬉しくなりますよね。
たとえば…
シワになりにくいように、ピシッと干された洗濯物とか、
ひとくちで食べやすい大きさに、切りそろえてくれた果物だとか。
いつの日か、母親がそんなことをしてくれたかもしれないし、
じぶんも、家族のためにしてあげるのかもしれない。
そんな思いやりのある手仕事に触れると、心が晴れ晴れとします。
今日は、まるでお母さんが娘のために愛情込めてこさえたような、
手をかけ、時間をかけて生まれた、素敵な一品をご紹介します。
「わっ、きれい」
しなやかによく曲がる蔓(つる)が、丸く丸く編み込まれて
コロンとしたカゴになったとき、
じっと見ていた私たちは
わっ、と歓声をあげてしまいました。
蔓を手際よく編みこんで…
プチン、プチン。と、端を切りそろえて…
コロン、とした丸いフォルムが、完成!
このカゴは何かというと、果物のアケビの蔓(つる)で出来ている、「あけびかご」。
アケビの実
「あけびかご」って?
あけびかごは、あたり一面にりんご畑が広がる青森県津軽地方で長年作られてきた、民藝の名品です。
その誕生は、ビニールやプラスチックの生活用品なんてまだない、江戸時代。青森に住む人たちは、山に自生しているあけびの蔓を使って、お茶碗篭入れや、お皿や、かばんをこさえていたんだそう。あけびかご、今となってはなかなかの高級品ですが、昔は一般家庭の必需品だったんですね。
これが、あけびの蔓。長いです! 自生しているもののうち、綺麗なものだけを選んで使うそうです。人工的には育てられないのだそう。
水でふやかして、寝かしてから、編み始めます。
そもそも、自生しているこんな蔓を、かばんにしちゃおう! と考えるなんて、昔の人はなんてDIY能力が高いのでしょう。
機械で作られた量産品とは違って、大切に使えばつかうほどにツヤが増し、成長していくという、なんとも愛らしいかごなんです。
(手の脂で成長するので、飾っておくだけではだめですよ)
そんな、あけびかご。20年ほど前までは、津軽地方にはたくさんの編み手がいらっしゃいました。多くの家庭で、雪が積もり、農業のできない冬の間には、家の中であけびかごを編んでいたんだとか。
ですが、あけびの蔓が採れる岩木山のふもとをはじめ、どんどん地面が舗装されていくにしたがって、蔓が採れなくなってきました。そして最盛期である20年前から、いまはなんと10分の1までに蔓の収穫量が減ってしまったんだそうです。
すると編み手も減ってしまい、いまでは数えるほどに……。
ですが、「けっして絶やすことのないように」という思いで、いまも少数ながら、生産を続けている方々がいます。その中でも代表的な製作所が、こちらの宮本工芸さん。
お店を切り盛りする武田さんと、編み手のてるこさん
品質の高い宮本工芸さんのかごは、全国各地に根強いファンがいます。
はやくとも1〜3ヶ月、長い場合には1〜2年待って、オーダーした商品が出来上がるほど、楽しみに待っている方が多いんです。
そんな宮本工芸さんが、なんと。
安野モヨコの作品『オチビサン』のために、オーダーした方に「オチビかご」を作ってくださることになったんです!それが、この2つ。
左側は、飾ってもかわいい、まあるいオチビかご。
右側は、お出かけにピッタリな、持ち運びやすいオチビカゴ。
(オーダーをいただいた方から順番に、手作りしていただく商品です。6月〜 お届けしていくことになりますので、オーダー後はごゆっくり、お待ちくださいね。詳しくはこちら)
下に敷かれている赤い布は、同じく青森の民芸「こぎん刺し」なのですが……そのお話は、記事の後半で詳しくお伝えしますね。
まずこのオチビかご。まあるい方は、このような木型をあてて作っていきます。
作っているのは、てるこさん。あけびかご暦、15年のベテランさんです。
ーーてるこさん、このあけびかご、コロッとしていて可愛いですね。
てるこさん:うん、コロッとしてる。可愛いねぇ。
ーー素手で編んでいかれてますが、手を怪我したりされないんですか?
てるこさん:大丈夫ですよ。節(ツルのふくらんでいる部分)はね、最初にとっちゃってますから。
ツルを通して、なめらかにする機械
ーーじゃあ、作るひとにも、使うひとにも優しいんですね。
てるこさん:そうよ、痛くないのよ。
武田さん:かごが出来上がったあとには、さらに小さな「ケバ」をとるために、火で炙るんです。ケバ焼き、という工程ですね。
ーーケバ焼き。なるほど、それをするとストッキングとかに、引っ掛けにくくなるんですね。
武田さん:そうです、そうです。
ーー1つのかごをつくるのに、どれくらいかかるんですか?
てるこさん:ものによるんだけど、このぐらいの大きさで、12時間ぐらいかしら。
ーーじゃあ、1日に1つ、という感じですね。
てるこさん:そうねぇ。ゆっくりね。でもやっぱり出来ていくのが楽しいっていうか、面白いっていうか。好きだんだべの、作るのが。「できた!」ってときが、嬉しいのよ。
そうお話しながらも、手際よく、でもていねいに、蔓をどんどん編みこんでいく、てるこさん。
私はお話を聞きながら、安野モヨコさんがオチビサンを描くときの心持ちに、少し似ているなぁ、とも思いました。
“ 安野モヨコ:版の上からポンポンポン…って色を載せているうちにのめり込んで、最後は「はぁ…できたぁ〜!!」って嬉しくなるんです。描くことで元気になれる。一種の心理療法みたいに…オチビに癒されてるんですよね。(『箱庭』インタビューより抜粋)”
急いで、はやく完成させよう…とすると、乱れてしまう。
ゆっくり、焦らずつくるのが、良いあけびかごを作る秘訣らしいんです。
こぎん刺しって、なあに?
さて、続いての主役は、こちらのオチビかごの下に敷いてある、「こぎん刺し」です。
こちらの「こぎん刺し」も、あけびかごと同じく、青森県津軽地方の民芸品。
麻の布に、木綿の糸で細かな模様の刺繡を施していくこぎん刺しなのですが……その歴史には、昔の人の知恵と工夫がありました。
青森の津軽地方は綿の栽培に適さず、むかしは綿の衣類を入手することも難しかった場所。
また、江戸時代は、農民がぜいたく品の木綿を着ることは許されなかったそう。
ということで、津軽地方の農民の衣類といえば、「麻」一択。
でも麻って、通気性バツグンでとっても寒い…。ましてや青森ですから、寒い寒い冬をしのぐのは、それはそれは大変なことでした。
そこで、農家の女性たちは麻の布に木綿の糸で刺繍を施して、服の中の空気が逃げないように工夫をこらしたのです。
そうすると、布の耐久性も増して、しかもオシャレ。
保温、補強、そして装飾を兼ね備えた、暮らしの知恵として「こぎん刺し」は誕生したんですね。家族があたたかく暮らせるように、一針ひと針に心を込めて刺していたことがはじまりだったんです。
そんな「こぎん刺し」は、津軽地方のお母さんから娘へ受け継がれて、今も大切に着用されているんだとか。
そして。今回は「オチビかご」のために、
オチビサン
ナゼニ
パンくい
…という3人(匹)のキャラクターをイメージした3種類のこぎん刺しを、この方々に作っていただきました!
「かちゃらず会」の、ひでこさん、まちこさん、けいこさんです。
津軽弁で「お母さん」は「かっちゃ」。 その複数形で「かちゃらず」会なんだそうです。
つまり
mother = かっちゃ
mothers = かちゃらず
ですね。
こぎん刺しの楽しさや素晴らしさを伝えて、広めるための活動をしている「かちゃらず会」。
この地区に住むお母さんたちが中心になって、少しの時間でも見付けてこぎん刺しを作ったり、ときには東京で開かれるワークショップにゲストとして呼ばれたりしているんだそう。
ーーこぎん刺しって、昔は保温や補強のために生まれたんですよね。
まちこさん:昔はね。でも今は、あったかいお洋服が売ってますから。私たちは古い伝統をできるだけ残しながら、今の時代にあったものを作っていきたいな、って。だから伝統といっても…結構自由なんです!
ーーみなさんからも、すごく自由な空気が出ています(笑)。
ひでこさん:自由で楽しいんですよ。自由すぎるくらいかしら?
まちこさん:今回も、オチビサン、という作品のオーダーをお受けしたからね。新しいものに興味があるもので。やってみたい、ってね。 でも、「パン」のデザインを作ってほしいということで…それは悩みました(笑)。
ーーでもこれ、パンに見えます! パンくいのためのこぎん刺しですね。
ちなみに、パンくいのこぎん刺しに使う青い糸は、藍染で染めたものだそう。
まちこさん:これは藍染ですけどね。他にもくるみとか、柿渋とか、染める材料はいろいろあるので、いろんな色に染めてみてるんですよ。
ーーすごい、それも自然の素材で。東京にいると、なかなか想像のつかない素材です…!
そして、私も小さなこぎん刺しに挑戦させていただいたのですが…
みなさんの4倍くらいの、超ゆっくりのスピードで…
「猫の肉球」というデザインを、チクチク……
一応、完成しました!
でも……
けいこさんの作る「オチビサン」模様のこぎん刺しのクオリティ…
こちらは、まちこさんの作る、ナゼニ模様のこぎん刺し…
糸のぷっくり具合や、布の引きつり具合なんかを見ても、そのクオリティの差は一目瞭然です。うーん、なかなか難しい!
でも、作ってみることはとても楽しい。
かちゃらず会のお母さんたちも、一針ひと針、刺していくのが楽しいそうです。
けいこさん:「こぎん刺しはね、小さく折りたたんで持ち運べるから、どこでも出来るのよ」
そう言いながら、取材中もずっとチク、チク。オチビサンたちの模様がどんどん、出来上がっていきました。
安野モヨコの作品『オチビサン』には、忘れ去られてしまいそうな日本の四季や、ぎゅっと懐かしくなるようなやわらかな日常が描かれています。
そんな『オチビサン』の世界を、
作品の中だけではなくて、暮らしの中にも取り入れて欲しい…と、
スタートした、オチビサン工芸プロジェクト。
昔の伝統を、残していきたい。
そして、楽しく、ものづくりをして暮らしていきたい。
そんな青森・津軽地方のほがらかな伝統工芸は、オチビサンの世界観にぴったり。
一つひとつ手間をかけた手仕事で、時間をかけて生まれるオチビカゴ。
使えばつかうほどにどんどん艶が増して、愛らしくなる。そんな一品です。
オチビかごは、今日から【4月30日までの完全受注】でご購入いただけます!
◎今すぐオチビかごを購入したい方はこちら
四角いオチビカゴ
丸いオチビカゴ
ちなみにあけびかごは、何十年たっても宮本工芸さんがメンテナンスしてくれるから、安心です。(自然素材のため、色ムラなどは返品・交換できません。そんな表情も、楽しんでいただければ嬉しいです)
青森の、津軽地方から。楽しく作られた、オチビかごが届きます!
ぜひ、楽しく使ってあげてくださいね。
Text by 塩谷舞(@ciotan) Photo by 中村ナリコ
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